お水がおいしい

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大正×対称アリス 感想

 

私はね、好きな人が幸せな結末を迎えられればそれで良いの

 

クレイジーだとかハッキリいって頭がおかしいとか散々言われ放題な理性的アッパー基地外恋愛脳美少女有栖百合花ちゃんによる大胆不敵で一途な王子様救済の愉快痛快純愛物語。

 

以下本編FD両方の内容ふくみます。

 

 

 

 

もうとにかく、いろんな男の子達を別々の世界でそれぞれのハッピーエンドへ導いていたと思ったら、実は全部同一世界線の話で、救っていたのはただ一人だったっていう乙女ゲームの構造を逆手に取った演出がお見事。藤文さんへの信仰が高まった。

同じく藤文さんシナリオのしにしょは正直乙女ゲームって枠から外れてたけど、これは乙女ゲーム(主人公が攻略対象を攻略していく)って枠ギリギリに留まりながら乙女ゲームって概念に挑戦状を叩きつけてる感じで痺れた。

 

 

かぐやさんのBADで魔法使いさんの「ねえ、ヒロインちゃん。君が大事にしなければならないのは君(じぶんじしん)じゃない」「君は彼にとって、いつまでも都合の良い女の子でいなければいけないのさ」ってセリフは、鏡の国のありすが現実の有栖百合花が駆使する物語をハッピーエンドへ導くためだけに存在するヒロインである(ハッピーエンドへ導かなければ存在する意味がない)って意味でも、これを言ってる魔法使いさんもまた物語にとって都合のいい存在でしかないって意味でもぞくっとした。

『ヒロイン』という存在に「いつまでも都合の良い存在でいなければいけない」「王子様の理想でならなければいけない」って乙女ゲームの攻略対象が言う、ってのがすごい。もはや危うい。

 

「君が囚われのお姫様(ヒロイン)だと言うのなら、姫(ヒロイン)らしい自覚を持て。何の為に姫はお約束的に敵に攫われると思っている」

「姫がか弱いからか?何らかの特別な力を持っているから?違うな。攫われた者を救い出すという英雄的役割を男に与える為に囚われのお姫様は存在するのだろう」(アリス/赤ずきん√)

「自分を好きだというのなら、その志が並大抵ではないことを証明してみせろと君は彼女に暗黙のうちに命じていたんだ」

「そして、君の出した難題をこなせたなら、その思いは真実の愛だとようやく信じてもらえる」

「なんて、傲慢なんだろうね」(白雪/かぐや√)

これは王子様を救済する物語であり、そのためにヒロインは終始王子様にとって都合のいい存在でなければいけない。特にかぐや√では、有栖百合花は終始彼の望み通りに動く駒であることに撤しないと彼を救うことができない。

鏡の国のありすが現実世界の"有栖百合花"の駒であり、そして現実世界の"有栖百合花"が語り手として鏡の国を外側から見ている以上、プレイヤーが介入する余地が一切ないので、百合花ちゃんに声があっても良かったんじゃないかなあ、と思う。紗夜ちゃんにはあったし…(パートボイスだったけど…)もうどこにもプレイヤーの意思が介在しない作品なので、声があったほうが没入度が増したのでは。

 

 

 

前述の通りこの物語の核となるのがヒロインこと有栖百合花ちゃんで、もう、とにかくこの子が良すぎる、最高。死神と少女の遠野紗夜ちゃん、月影の鎖の冬浦めぐみちゃんみたいな愛情表現が過多で重くて独りよがりで目的のためなら手段を選ばない究極的に恋愛脳な主人公が大好きなんですけど、完全にその系譜。

ただ百合花ちゃんが違うのは、二人が相手と手をつなぎながらずぶずぶと深い闇の底まで沈んでいくダウナー精神疾患タイプなら、百合花ちゃんは好きな人のためならその人が嫌がろうがなんだろうが、自分を犠牲にしてでも力ずくでハッピーエンドまで持っていこうとするアッパー系のパワー型正気恋愛脳で、そこが新鮮で面白かった。

愛を証明する為に躊躇なく自分のお腹に刃物ぶっ刺したり、留年するために突然教室の窓ガラス破壊したり、レイプされかけても好きな人が無事ならそれでいいってレイプされかけたこと自体はあんまこたえてなさそうだったり、とにかく好きな男の為ならほかのことは一切省みらず無条件に無尽蔵に愛情を捧げられる超恋愛主義。

それが無自覚ならまだしも、「周りが見えなくなるのではなく、周りを見ていながら、敢えてそれらを無視」している(お兄さん談)というのがより一層異常性を極めている。なんだろう、論破の狛枝とかそっちを彷彿とさせる基地外さというか。狂気的な基地外よりも理性的なのに素で頭がおかしいから対処のしようがない基地外の方が怖いよね。

 

 

 

多重人格については割とすぐそうなんじゃないかなと思ったので、統合エンドになるのかなと思っていたら、完全無欠なハッピーエンドの為にひとりひとりの物語の為に存在する有栖百合花とそれぞれが幸せな結末を迎えるという超欲張りなエンディングでやられた!!と思った。ただひとりを選ばなくてはいけないヒロインが、誰も選ばず全員と一対一の関係で幸せになる、というのがすごく綺麗だし彼女の傲慢さ、強欲さが出ていて気持ちが良い。

 

 

 

テキストのノリが全体的にギャルゲーぽい(男性向けっぽい)のが印象的だった。これメイン層にはどう受け取られたんだろう、自分はとにかくこのテキストのセンスが最高に好みで終始楽しかった。

ギャルゲーぽいといえば、乙女ゲーの割にファンタジックじゃない性的な要素が結構扱われていたのが新鮮だった。主にグレーテルルートでの性的衝動とか、FDでのアリステアオオカミくんの好きな女の子が自分以外とセックスしてたらどう思うか問題とそれに付随した夢精の話とか。王子様と性を結びつけるの、全年齢の乙女ゲー的には結構危ういのでは?と思ったけど革新的で流石だなあと思うし、それがトリッキーな飛び道具ではなくしっかりと演出に必要な要素として扱われていたのがとても良かった。あと個人的な嗜好として堪らなかった。目を覚ましたらヒロインが隣で寝てて自分は夢精して下着汚してた男の子、良すぎる…。

あとギャグの下ネタが妙に面白くてドツボにはまってしまった(赤ずきんアフターが最高だった)(「気持ちよかったら自然と声に出るってオオカミに借りた本に書いてありました!」)(「現実はエッチ本と違うんですよ!」)

 

 

 

それから、オオカミくんの童貞描写が妙に地に足ついていたのが印象的。

走ってる時に胸に目を奪われるのはファンタジー的童貞可愛いさだったけど、アリステアを救うために隣に座って肩を寄せ合って本を読む真面目且つ超乙女ゲー的トキメキイベントの後に帰宅してAV見ながら「何であの時あのまま押し倒さなかったかな~~~~押し倒してたらヤレてたかな~~でもそんなんでセックスしてもな~~~俺は健全なお付き合いがしたいんだよな~~!!!!」ともだもだするのがメチャクチャ童貞くさくて可愛くて興奮した。その直前に見てたAVの顔が百合花に置き換わっているのも最悪すぎて本当に可愛い。

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可愛い…………

というかここまでセックスって単語が出てくる全年齢乙女ゲームあんまないのでは?乙ゲって過激なものでもこういう方向のはあんまりないような気がするので…。しにしょを思うと藤文さんの芸風なのかな。幻想的な世界観と生っぽい性の組み合わせがすごく好き。

 

 

 

 

近親相姦のオタクとしてはグレーテル√が興味深かった。

血縁厨なので兄弟姉弟は血縁関係にあるほうが好きなんだけど、こっちは血の繋がりがないからキスだってセックスだって別にできるし、結婚だってしようと思えば出来るのに、だからこそ姉弟関係により囚われてしまうってのが普段自分が好んで見る姉弟ものとは逆のアプローチで面白かった。

必要としていたのは「姉」としての百合花だったのに、姉になってしまったからこそ「弟」として劣等感を抱いたことで生まれたグレーテルくん。物語の中では、彼女への劣等感に苛まれながら、反対に異性としては惹かれ性的衝動を抱いてしまう。けれど異性の関係になれば、グレーテルにとって世界の全てで絶対的な味方であるただひとりの家族から捨てられてしまう。姉弟としての関係は苦痛だけれど、それを壊すわけにいかないっていう、血縁ではないからこそ家族という枠に縛られた二律背反が、本筋を一旦忘れて純粋(?)な姉弟ものとしてなるほど…となった。

えろげだったら姉として見ているはずの彼女へ異性に向ける性的感情を抱いてしまったってあたりがもっと深く掘り下げられたのかなあと思うと、惜しい!!!!「十代男子の性欲なめんなって感じです」ってセリフがめちゃくちゃ萌えた。

 

 

 

一番好きなのは、百合花ちゃんを除けばオオカミくん。終始脇役、サブキャラクターに徹して、物語をつくるサポートをし続けた功労者。

とにかくメッチャクチャ可愛い…。途中から実況ログが「オオカミくんとセックスしたい」「オオカミくんと恋愛させろ」「エロゲだったら適当なifでオオカミくんと猟師さんとセックス出来た…」ばかりになるくらい(欲望丸出しでは?)

すぐに多重人格の話を信じきれなかったり、恋愛感情とはまた別に性へ興味関心が強かったり、根は結構普通の子なんだけど、とにかく取るムーブ、求められるムーブがことごとく物語のサポート役(この場合のサポート役は、正しい良い方向へ導くというよりも、物語を進行させていくという意味)なのが、「いい子なんだけどどこまでいってもサブキャラ」で大変しんどい。

彼視点だと彼は嫉妬もするし悩むし失敗するし年相応な子って印象を受けるんだけど、百合花ちゃんの「他人の為に自分を敢えて下げることの出来る、バランス感覚に優れた人物」って表現が百合花ちゃんにとってはどこまでも都合のいいサブキャラでしかないことを強く表していると思う。そのあとに続くのが「物語でいえば、主役を助け、引き立たせる脇役といったとこでしょうか」なのがベリベリしんどい。いやもう世界観メチャクチャでいいからオオカミくんと恋愛したいよ。主人公も百合花ちゃんじゃなくてなんかそこらへんの適当な女でいいからさ…。

あとはさっき書いたとおり童貞拗らせてるのがもう堪んなく可愛くてドツボだった、童貞くさい妄想エピソード何個も挟んでくるし完全に制作側もオオカミくんの童貞萌えだったと思うんだよな……えろげだったらおなぬーシーンがいくつか入ってたと思う。悔しい。本当に悔しい。

 

 

あとは猟師お兄ちゃん!オオカミくんと並んで名脇役。血縁萌えなので「指輪は将来、彼氏に買ってもらえ」「……私に彼氏が出来なかったら?」「その時は考えてやるよ」のやり取りに悶え死んだ。妹への誕生日プレゼントにさらっと10万出すのもヤバイ。

 グレーテル√をやってる時はお兄ちゃん言ってることは正論だけどひどい><って思ったけど現実世界で見るとあまりにも作中屈指の常識人且つまともな発想で、なのに絶妙に報われないのが不遇すぎる。オオカミくんといい、『良い人』が損をする役回りなのがおとぎ話っぽくて切なかった。これはお姫様による王子様を救う物語だから、脇役は救ってはもらえないんだよね…かなしい。

 

 

 

いやーおもしろかった!今はとにかくしにしょがやりたい、PSPが行方不明、移植してほしい。